パリのテーラーリング技術とエスプリの継承

日本でモデリストの経験を積んだのち、本格的にテーラーリングを習得するため渡仏。パリのモデリスト養成学校で学び、仏政府認定モデリスト国家資格を取得。ARNYSにおいてカッターであるアルフレッド・オルランディ氏から直接カッティング技術及びフィニッション(仕上げ技術) を学んだのち、LANVINそしてCAMPS DE LUCAに身を置き仕立て技術の全て、すなわち芯作りから襟付け・袖付けに至るまでの、広範囲にわたる縫製技術をベテラン職人に厳しく鍛えられる。その傍らオーナーカッターのマルク・ドゥ・ルカ氏から仮縫い技術を習得。

 

その後、フランス一の顧客数・生産着数・クオリティーを誇り職人35人を超えるFRANCESCO SMALTOにおいて、日本人として初めてカッターに就任。フランチェスコ・スマルト氏本人と、その右腕として45年間カッターを務めるアンドレ・スリエ氏からFRANCESCO SMALTOのカッティングの全てを受け継ぐ。こうして、日々パリのテーラーリングの躍動とエスプリの根幹に身を置く。

 

そしていま、パリのトップクラスのテーラーを創り上げてきたアルティザンから得たものを消化し、自らのシュール・ムジュールのあり方を確立した。“私たちが作るものは誰が見ても美しく、それは世界の国際的なビジネスの場で必ず通用し、且つそこには凛とした品が漂っている。”

 

“服は美しくエレガントで品があり、そして軽く柔らかく”

人間の体は左右非対称という考えの下、型紙は全て左右別々に作る。ジャケットのカッティングはpres du corp(体に沿った細身のライン) でウエスト位置を高めにとる。ラペルカットはanglaise (ゴージライン) を高めに取ったセミピークドラインを基本とする。肩はコンケーブショルダーラインで肩ぐせをしっかりと取ることで動きやすくし、また、高めのアームホール位置と構築的な袖ラインにより高い着心地を実現する

 

内部構造には非常に力を注いでおり、特に芯地は出来るだけ柔らかくそして軽くを常に考え、かつ男性的な胸周りを作るために手作業とアイロンワークによって美しい立体を作り上げている。またラペルと襟芯地も柔らかく立体に沿うように手八刺しする。

 

フィニッションはパリの伝統を踏まえた仕上げで、ボタンホールを手で作るのはもちろん、特にミラネーゼと呼ばれる芯糸をシルク糸でかがるのがパリのやり方である。また、ラペルのフラワーホールはヨーロッパでもパリでしか見られない特別の形を継承している。左の袖口にはイニシャルの手刺繍が入る。ジャケット内側は柔らかい着心地を実現するため、全て手で仕上げる。裏地処理もまつり縫いの代わりにrabattementと呼ばれる星ステッチで仕上げ、コートの場合はこのステッチの外側にさらにまつり縫いをすることで、より強い耐久性と、コートの重量感に合わせた仕上がり感を実現する。